ハチ公クラブヘの信頼。
それはハチ公の古里
秋田県大館市にあることです。
秋田犬発祥の地。

コラム秋田犬(2)
 

秋田犬と外国人

 北東北の秋田犬オーナーたちと国内外の秋田犬飼育希望者の橋渡しのほか、ハチ公の古里大館から秋田犬の情報を世界に発信したいという願いから、2000年1月にハチ公クラブをスタートさせた。より良い秋田犬を希望者に適正価格で譲渡するとともに、実費のみを希望者に負担してもらう「秋田犬里親制度」を本格化させようと、秋田、青森両県を中心とする優秀なオーナーたちと親睦を深めてきた。興味深い取り組みだということで、テレビ局から取材依頼もあった。 

 ハチ公クラブのスタートと同時に、貿易にも乗り出した。早くから秋田犬の英文ホームページを作成し、いくつかの海外検索サイトに登録した。取り組み開始から現在に至るまでの間、海外から舞い込んだ「秋田犬を購入したい」という希望は軽く100件を超える。事業をスタートさせるにあたって、(社)秋田犬保存会の永井隆一事務局長(元)からアドバイスを得た。彼は「海外で秋田犬の価値を下げることは避けたい。安い買い物というイメージを持たれかねないので、必要以上に低価格で海外の希望者に譲渡するのはやめてほしい」といった。それはいいのだが、重要なのは次の点。多くの日本人オーナーが海外の罠にはまっているというのである。 

 要点をかいつまんで紹介すると、こうなる。外国人の購入希望者から、何らかのルートでオーナーに注文が入る。オーナーは適正価格を付し、犬を空輸する。ここに大きな問題がある。大抵のオーナーは全額はおろか手付金すら購入希望者から得ておらず、秋田犬が届いてから全額支払ってくれるものと信じている。いざ秋田犬が購入希望者の玄関口に届くと、購入希望者は宅配会社に対して「気が変わったので、いらない」と告げる。宅配会社はオーナーにその旨、連絡を入れるわけだが、途方に暮れるのは当のオーナーである。購入希望犬はほとんどの場合仔犬で、優秀な成績を収めた成犬ではないため莫大な損害には至らないとはいえ、オーナーには1円の代金も入らないどころか、往復の航空運賃をはじめとする諸々の経費をドブに捨てることになる。 

 泣く泣くオーナーは、再び日本に戻すための経費をかけられないので、現地で処分してほしいと要請する。そこで、購入希望者が眼を輝かせてこういう。「処分するんだったら、仕方がないから私がもらってあげるよ」。詐欺以外の何ものでもない。永井氏にいわせると、これが海外の常套手段なのだそうだ。少なくともそうした手口は日本国内では使いにくいし、仮に発生しても、所轄警察署に動いてもらうことは可能だ。しかし、海外となるといったん手元を離れた犬は凧の糸が切れたようなもので、"詐欺師"の罠にはまってしまえばお手上げである。 

 前述の海外からの100件を超える購入希望者もほとんどがそうしたケースだった。カネを払わないで、秋田犬だけせしめようという魂胆。「すばらしい秋田犬がほしいので、ぜひ送ってください」とくる。何度かやり取りを重ねた末、最後にこちらから提案をする。「お互い信頼の中での取引ですので、代金の授受はこうしましょう。あなたを信じていないわけではないのですが、犬を送って万が一代金がまったく入らなければ、こちらが大きな損害となります。その逆も然りで、あなたが全額前金で支払ったのに犬が届かない、あるいは写真で示した犬と違うということになれば、あなたに損害が生じます。折衷案として、前金半額をクレジットカードか銀行振込でお願いします。きちんと犬が届いた後で、残りをお支払い下さい。それでリスクを双方で分配できます」と丁重に伝える。外国人の10人中9人までが、そこで商談を一方的に打ち切る。信用状や送り状、船荷証券、荷為替手形、外航貨物海上保険証券など、貿易決済にはリスク軽減を主目的にさまざまな仕組みがある。しかし、前述のような海外の購入希望者は貿易業者ではないため、「そちらの銀行からL/C(信用状)を得てください」などと要請しても話が通じない。 

 提案犬を直接目で見て健康状態や血統などを確認し、写真撮影するために片道数時間をかけて他県のオーナー宅に出向くこともたびたびである。詐欺行為を事前に食い止めただけでも良しとすべきなのだろうが、「この人は詐欺を企んでいる」と商談成立直前になって察知するケースの方が多いため、こちらの無駄な労力は無論、オーナーを落胆させること甚だしい。外国人すべてがそうだと決めつけられないまでも、日本国内ではなく海外在住の外国人にそうした者が少なくないという現状だけは、全国の方々に認識していただきたい。秋田犬に限らず、貿易決済の勉強もせずに商品だけ先に海外に送ると、大火傷を負いかねない。よほど強い信頼関係を構築しているのなら別だが、商取引で代金を全額後で受け取るという取り決めが通用するのは、国内だけのことだろう。 

 2002年秋には、こんなケースもあった。インドの会社社長が「現地で代理店販売したいので、秋田犬を10頭支度してほしい。ついては、今月中に秋田を訪れ、犬を見たい」と、連絡してきた。詳細な打ち合わせを繰り返したのだが、互いに英語でやりとりをしているにもかかわらず、どこか微妙に噛みあわない。先方が10月15日に来日したいと希望してきたのに対し、「それだと日が足りず、直接見てもらう10頭を用意するのはむずかしい。当方が提案する秋田犬オーナーは、11月3日に大館市で大きな展覧会(県北支部展)があるので、秋田犬について認識を深めてもらうためにその日の来所を薦めているがどうか」と打診した。 

 インド企業の社長はその後、来日予定日を明確にせずにビザに必要なこちらの署名、捺印のみを取り寄せてプッツリと交信を途絶えたままにしている。経験に基づく直感は語っている。またしても無駄な時間を費やしたと。このインド人に限らず外国人は往々にしてあることだが、ほんのわずかでもやり取りがスムーズにいかなくなると、一方的に商談を断つ傾向がみられる。日本人なら、何としてもまとめようと努力するのが通例だが、日本人に対して「あいつは気に食わん。あいつが発した一語が気に食わん」などの感情をほんの少しいだいただけでも、これまで積み上げてきたやり取りを一瞬にして反古にする気質がうかがえる。いや、それは違うでしょうと反論する、いわば身近に外国人と接している方々もおられようが、ことビジネスとなると、日本人とは精神構造、価値観、経済観念、社会性、ビジネス規範の尺度がかなり異なるように思える。当のインド人はもとより米国人、スイス人、イタリア人、韓国人、中国人、ユーゴスラビア人、ベトナム人、アゼルバイジャン人等々、辟易させてくれる外国人が多すぎる。